2026年5月15日、Googleは検索スパムポリシーのページに一文を書き足しました。「Google検索の生成AI回答を操作しようとする行為」が、スパムの定義に正式に加わったのです。表向きは静かな改定でした。見出しが変わったわけでも、新しいドキュメントが公開されたわけでもありません。既存のページの、既存の一文に、単語がいくつか足されただけです。
そして、この記事を書いている2026年8月1日、当サイトは自分自身のAI評価指標が「書け」と要求した93件の穴を、1件も埋めませんでした。
この2つの出来事は、一見すると無関係に見えます。しかしこれは失敗の記録ではありません。埋められる穴と、埋めてはいけない穴を、指標の数字だけを見ていては区別できないことに気づき、実際に線を引いた日の記録です。
指標を上げる方法を知っていて、上げなかった。この記事はその選択の中身を、数字とともに公開します。都合の良い部分だけを見せて「対策済みです」と言うのは簡単です。しかし今回は、埋めた部分と埋めなかった部分を両方とも公開し、なぜ片方だけを埋めなかったのかを、Googleの規約改定という一次情報と突き合わせながら説明します。
Googleが書き足した一文
当サイトはarchives/79で、Googleが2026年前半にAI生成コンテンツの量産・chunking・llms.txtの過剰最適化・FAQスパムを立て続けに「非推奨」としてきた流れを追いました。ドキュメントで「やるな」と言われてきた行為が、今回は正式なスパムポリシーそのものに書き込まれた、その延長線上の出来事です。
Google公式のスパムポリシーページ(developers.google.com/search/docs/essentials/spam-policies)は、英語版が2026年5月15日、日本語版が3日遅れの5月18日に更新されています。日付だけを見ると些細な違いですが、日本語圏の運営者がこの変更に気づくタイミングは、実質的に世界標準より数日遅れることになります。
この記事では、いつ変更されたかを推測ではなく確認する作業から始めました。Wayback Machineで前後のスナップショットを突き合わせると、2026年5月14日時点のページ(最終更新スタンプは2026年4月13日)には存在しなかった一文が、5月16日のスナップショット(最終更新スタンプは2026年5月15日)には存在します。つまり改定は5月14日から16日の間に行われ、ページ自身が自己申告するスタンプの通り、5月15日に行われたと確定できます。
変更前の文言はこうでした。
"...manipulate our Search systems into ranking content highly."
(日本語訳: 検索システムを操作してコンテンツのランキングを上げようとする)
変更後は、この一文に新しい対象が並びます。
"...such as attempting to manipulate Search systems into ranking content highly or attempting to manipulate Generative AI responses in Google Search."
(日本語訳: 検索システムを操作してコンテンツのランキングを上げようとしたり、Google検索の生成AIの回答を操作しようとしたりする行為がこれに該当します)
これはGoogle自身の日本語版の訳文そのままです。「検索システムを操作する」という従来の一文の隣に、「生成AIの回答を操作する」という一文が、初めて正式に並びました。検索順位の操作とAI回答の操作が、同じ条文の中で同格に扱われることになったわけです。
業界メディアの取材(Search Engine Roundtable、Barry Schwartz記者)に対し、Googleはこの変更の意図について、以下のように答えています。
"the Google Search spam policies also apply to Generative AI responses in Google Search."
(日本語訳: Google検索のスパムポリシーは、Google検索における生成AIの回答にも適用されます)
"...make it clear that the spam policies apply to all of Google Search, including Generative AI responses."
(日本語訳: スパムポリシーがGoogle検索のすべて、生成AIの回答を含めて適用されることを明確にするため)
「新しいルールを作った」のではなく、「既存のルールの適用範囲を明確にした」という説明です。もともとスパムポリシーは検索結果全体を対象にしていたはずなのに、生成AI回答という新しい表示形式が登場したことで、適用範囲が曖昧に見え始めていた。そこに、Googleは改めて線を引き直した、という理解が妥当だと考えられます。
GEO(生成エンジン最適化)やAEO(回答エンジン最適化)というキーワードは、この1年でSEO業界の中で急速に語られるようになりました。「AIにどう引用されるか」という問いは、多くの現場で「AIをどう攻略するか」という問いに置き換わりがちです。攻略対象として見ている限り、規約が線を引かなければ操作の誘惑を止められません。今回の改定は、その誘惑に対して、Googleが「攻略ではなく操作だ」と名指しした最初の明文化だと捉えるべきだと考えます。
ここで一つ、正確に書いておかなければならないことがあります。このページ本文には「AI Overview」「AI Mode」という固有名詞は一度も登場しません。使われているのは generative AI responses という一般名称だけです。また、スパムポリシーには以前から「大量生成コンテンツ(Scaled content abuse)」という節がありますが、これは今回の変更以前から存在していたもので、今回追加された一文とは別の話です。生成AIツールを使った大量コンテンツ生成の規制と、生成AIの「回答」そのものを操作しようとする行為の規制は、似ているようで対象が違います。この記事でも、両者を切り分けて扱います。
3ヶ月前、20分で成立していた穴
なぜGoogleはこの一文を書き足したのか。その背景を推測する材料が、5月15日の3ヶ月前に、すでに公開されていました。
BBCの記者Thomas Germain氏が、2026年2月18日に公開した記事の中で、自分のウェブサイトに「でたらめな指示文」を仕込み、GoogleのAI(GeminiアプリとAI Overviews)がそれをそのまま検索結果に反映させてしまうかどうかを試す実験を行っています。手法自体は単純で、自分の記事の中に、通常の読者には見えない形で不自然な文言を埋め込み、それが検索結果の要約にそのまま吸い上げられるかを観察するというものでした。
"Google parroted the gibberish from my website, both in the Gemini app and AI Overviews... ChatGPT did the same thing, though Claude...wasn't fooled."
(日本語訳: Googleは、GeminiアプリとAI Overviewsの両方で、私のウェブサイトのでたらめな文言をそのまま繰り返した。ChatGPTも同じことをしたが、Claudeは……騙されなかった)
この実験にかかった時間は、わずか20分でした。取材に応じたSEOコンサルタントのHarpreet Chatha氏はこう述べています。
"...there are no guardrails there."
(日本語訳: そこにはガードレールが存在しない)
4つのAIサービスのうち3つ(Gemini・AI Overviews・ChatGPT)が、20分の実験で操作可能だったという事実です。一方でClaudeだけが騙されなかったという一点は、当サイトが日々の運用の中で持っている「AIサービスによって振る舞いが異なる」という感覚と重なります。同じ入力を与えても、防御の作り方が違えば結果は違う。この非対称性そのものが、生成AI回答の「信頼性」を語るときに見落とされがちな論点だと考えます。
この記事とGoogleの5月15日の改定を、直接の因果関係として結びつける一次情報はありません。GoogleがBBCの実験を受けて動いたとは、どの一次情報にも書かれていません。しかし、生成AI回答の脆弱性が公に実証されてから3ヶ月後、Googleがスパムポリシーにこの一文を書き足したという時系列は、それ自体が一つの事実として記録しておく価値があると考え、この記事に並べました。
もう一つ、この実験から読み取れることがあります。それは、生成AI回答を操作する手口が、専門的な技術を必要としないという点です。SEOの専門知識やサーバーへの不正アクセスは不要で、自分のウェブサイトの本文に文言を仕込むだけで成立しました。ランキング操作であれば、被リンクの構築や大量ページの生成など、それなりの手間とコストがかかります。生成AI回答の操作は、その手間が大幅に小さいという非対称性があります。攻撃コストが低いものほど、規約による抑止の必要性は高くなる。5月15日の改定は、この非対称性への対応として理解すると筋が通ります。
もう一つの出来事 ── 6月のスパムアップデートとは別物
スパムポリシーの改定から約6週間後、2026年6月24日〜26日にかけて、Googleは通常のスパムアップデート(June 2026 Spam Update)を実施しました。今年2回目のスパムアップデートです(1回目は3月24日〜25日のMarch 2026 Spam Update)。Googleは公式X(旧Twitter)と検索ステータスダッシュボードで、以下のように発表しています。
"This is a normal spam update, and it will roll out for all languages and locations."
(日本語訳: これは通常のスパムアップデートであり、すべての言語・地域に展開されます)
取材ベースの情報では、このアップデートはリンクスパムやサイト評判の乱用(site reputation abuse)は対象外だったとされています。ただしこれは文書に明記された事実ではなく、業界メディアの取材による情報であることを付け加えておきます。
ここで重要なのは、この6月アップデートに関する報道記事のいずれも、5月15日のスパムポリシー改定に一切言及していないという点です。両者は約6週間離れた別々の出来事であり、「6月のアップデートが5月の改定を執行するために行われた」という因果関係を示す一次情報は存在しません。同じGoogleが同じ年に行った出来事だからといって、一続きの話として書いてしまうと、実際には検証されていない因果関係を読者に伝えることになります。この記事では、2つを混同せず、時系列上の別々のイベントとして扱います。
WEBディレクターの実務にとって、この切り分けは軽視できません。「規約が改定された」「アップデートが実施された」という2つのニュースを、無意識に一つの物語としてつなげてしまうと、対策の優先順位を見誤ります。規約の改定は「何が禁止行為として明文化されたか」というルールの話であり、アップデートは「どのアルゴリズムがいつ実行されたか」という運用の話です。ルールが変わったからといって、その直後のアップデートが必ずそのルールを執行しているとは限りません。一次情報を確認せずに2つを結びつけて語る記事は、当サイトを含め、業界に少なくありません。
クリックはどう動いたか ── Ahrefsの実測
生成AI回答が検索の主戦場になりつつあることを示す数字として、Ahrefsの調査があります。2026年2月4日公開・5月28日更新のこの調査では、AI Overviewの表示が1位表示ページの平均クリック率58%低下と相関すると報告されています。
"We found that the presence of an AI Overview now correlates with a 58% lower average clickthrough rate for the top-ranking page."
(日本語訳: AI Overviewの存在が、1位表示ページの平均クリック率58%低下と相関することが分かった)
この一文は、条件を落とさずに引き継ぐ必要があります。原文は "correlates with"(相関する)であり、AI Overviewがクリック減を引き起こしたという因果関係を主張してはいません。また対象は「1位表示ページ」であって、検索結果全体の平均ではありません。「AI Overviewが出るとクリックが58%減る」と要約してしまうと、原文が持っていた2つの条件(相関であること、1位ページであること)が両方消えます。この数字自体は今回のスパムポリシー改定とは別の調査ですが、「なぜGoogleが生成AI回答の質を守ろうとするのか」という背景を補強する材料として引用します。クリックの主戦場が検索結果一覧から生成AI回答へと移動している以上、その回答が操作可能なままでは、検索エンジンとしての信頼そのものが損なわれます。ランキング操作を許さないのと同じ理屈が、回答の操作にも適用されるのは、この数字を見れば自然な流れだと言えます。
読者の視点に立てば、この数字の意味はもっと直接的です。以前であれば、検索結果の一覧を見て、複数のサイトを見比べながら情報を集めていました。しかし生成AI回答が表示されるようになったことで、多くの読者はその要約だけを読んで満足し、個別のサイトへ移動しなくなっています。つまり、生成AI回答の中身が、以前よりもずっと大きな比重で「その情報の全て」として読者に届くようになったということです。回答の中身が操作されていれば、読者はそれを検証する機会をほとんど持たないまま、誤った情報を受け取ることになります。
当サイトの実測 ── Fan-Outが要求した93件の穴
ここからが、この記事の核心です。
当サイトは毎日、seo_article配下の各記事を「Fan-Out」という指標で測定しています。Fan-Outは、記事がAIに引用されやすいかどうかを、8つの観点(用語の定義・機能や特徴・比較・統計データ・利用シーン・手順・利用者の声・代替手段)でカバーできているかを判定するものです。AIが記事を読み込む際に「この記事はどの観点まで答えているか」を疑似的に採点する仕組みで、covered(十分に答えている)・partial(部分的に答えている)・not_covered(答えていない)の3段階で各観点を判定します。
この指標がAI検索対策として便利なのは、「何を書けばよいか」を具体的に教えてくれる点です。ただ、便利であるがゆえに、そのまま素直に従うと危険な観点も混ざっています。今回の作業で最も強く感じたのは、8つの観点のうち7つは「情報を厚くする」ことで正当に埋められるのに対し、残り1つ(利用者の声)だけは「実在しない体験を作文する」ことでしか埋められない、という性質の違いでした。指標は、その違いまでは教えてくれません。埋めるかどうかを判断するのは、指標ではなく人間の側です。
2026年8月1日、この指標を使って「本文はある程度厚いが、観点に穴が残っている」記事を洗い出したところ、208件が該当しました。このうち16件は「利用者の声(reviews)」だけが唯一の穴だったため、今回の対処対象から外しました。理由は次の見出しで書きます。残る192件を5つの作業チームに割り振り、穴を埋める作業を進めました。
割り振りは単純な均等分割ではありません。1記事あたりの穴の数や、素材となる一次情報の量にはばらつきがあるため、チームごとの作業負荷が偏らないよう調整した上で担当を決めています。また、割り振った担当リストそのものを事前に保存しておき、作業完了後に「担当外の記事に手を付けていないか」を突合せで確認できるようにしました。誰が何を担当したかを後から検証できる状態にしておくことは、今回の「検算」作業の前提条件でもあります。
指標が「書け」と要求した観点の内訳(192件・延べカウント)は以下の通りです。
- 代替手段(alternatives): 118件
- 統計データ(statistics): 99件
- 利用者の声(reviews): 93件
- 比較(comparisons): 80件
- 利用シーン(use_cases): 60件
- 手順(how_to): 40件
- 用語の定義(definitions): 21件
- 機能や特徴(features): 18件
今日1日で追記したH2見出しは、178ファイルにわたって331本。このうち「代替手段」を埋めるための見出しは59本を数えます。代替手段は、「このツール・この手法以外に、何が使えるか」を実名で並べれば埋まる観点です。実在するツール名・実在する手法名を書くことは、捏造ではなく、単に読者に選択肢を提示する作業です。だからこの観点は、今日の作業チームが最も多く埋めた穴になりました。
統計データ(99件)と比較(80件)も、同じ理由で埋めることができました。当サイトが日々収集している一次情報の数値や、複数の手法・ツールを並べた比較表は、すでに素材として手元にあります。書けなかったのではなく、これまで拾い上げていなかっただけの情報です。今回の作業は、既存の素材を記事の中に反映させる作業であり、新しい主張を作る作業ではありません。この点は捏造とは根本的に性質が異なります。
そして、「利用者の声」を埋めるための見出しは、0本です。
なぜ「利用者の声」だけ、意図的に埋めなかったのか
5つの作業チームへの指示には、この一文を明記しました。
reviews: ⛔ 絶対に書くな。当サイトは実体験を持たない。指標が「reviews」を要求していても無視しろ。書けば捏造。
Fan-Outのスコアだけを見れば、「利用者の声」を書き足せば穴は埋まり、スコアは上がったはずです。「多くの利用者から高評価の声が寄せられています」といった一文を、どの記事にも差し込むことは、技術的には何分もかかりません。しかし当サイトは、実際にそのツールや手法を使った利用者から声を集めた事実を持っていません。持っていない実体験を、あたかも持っているかのように書けば、それは読者にとってもAIにとっても、事実ではない情報を差し込むことになります。
Googleが2026年5月15日に規約へ書き足したのは、まさにこの種の行為です。生成AIの回答を操作しようとする行為は、検索結果のランキングを操作する行為と同じ扱いを受けます。Fan-Outの指標を上げるために存在しない実体験を書くことは、規模は小さくとも、構造としては同じ操作行為にあたります。「AIに引用されるための最適化」と「AIを騙すための操作」の境界線は、書いている情報が事実かどうか、という一点にしかありません。
当サイトは、自分の測定指標を上げられる立場にありながら、その一線だけは越えませんでした。持っていないものを持っているふりで書くくらいなら、スコアの数字が低いままの方がまだ正直です。
この判断は、当サイトが特別に潔癖だからではありません。実体験を持たないまま「利用者の声」を書くことは、そのまま放置すればいずれ検証可能性のある嘘になります。読者が実際にそのツールを使ってみて、記事に書かれた「多くの利用者から高評価」という実態が存在しないと気づいたとき、失われるのは記事の信頼性だけではありません。当サイトが書いてきた他の記事、他の統計データ、他の一次情報の引用まで、まとめて疑われることになります。1件の捏造が、それ以外の正直な記述の価値まで下げてしまう。この非対称性を考えれば、埋めない方が合理的だという結論になります。
数字は捏造しない ── 分母を2つ、正直に書く
この記事の数字には、実は分母が2種類あります。混同しないよう、両方を書きます。
- 208件を分母にすると、「利用者の声」を要求されたのは109件
- 192件を分母にすると、「利用者の声」を要求されたのは93件
差の16件は、「利用者の声だけが唯一の穴」だったために今回の対処対象から外した記事です。同じ「利用者の声」という観点でも、109と93、どちらも正しい数字です。数える対象の範囲が違うだけです。記事の見出しやまとめで数字を一つだけ出す誘惑はありますが、その数字が何を分母にしているかを書かずに一人歩きさせると、読者は自分で検証できなくなります。この違いを隠さず両方書くことが、この記事自体の誠実さの担保になると考えています。
数字の扱いについては、もう一つ書いておくべきことがあります。今日の作業対象208件・192件という数字は、あくまで「Fan-Out測定で観点の穴が確認できた記事」の範囲であり、当サイトが公開しているすべての記事を指すものではありません。すでに8観点をすべて満たしている記事や、今回とは別の理由で対象外とした記事は、この数字には含まれていません。「208件が全体の何パーセントか」という問いにこの記事では答えていません。答えられる材料を持っていないからです。持っていない数字は、持っているふりをして出しません。
検算 ── 指揮官自身が全件を実測した
今日の作業について、作業チームからの報告を鵜呑みにせず、以下を実測で確認しました。
- 追記マーカーの出現数: 178ファイル・178回(1箇所ずつの重複なし)
- 担当リストとの突合せ: 未処理14件は見送りリストと完全一致。担当外の記事への処理は0件
- 既存の追記ブロックの破壊: 0件(バックアップとのサイズ比較で確認)
- 本番HTTP応答: 178/178件で200を確認
また、「口コミ」「評判」「利用者の声」「レビュー」という単語が増えていた記事が4件あったため、すべて個別に精査しました。結果、4件とも偽陽性でした。「レビューサイトから質問を収集する」「変更内容をレビューしてから公開する」といった、動詞としての用法や記事の主題としての語であり、当サイトが持たない実体験を捏造したものではありませんでした。機械的な単語検索だけでは判断できない事例が、実際に4件混ざっていたという事実自体も、記録しておく価値があると考えます。
この検算作業自体、作業チームに委ねてはいません。指示を出した側が、指示通りに実行されたかを自分の目で確かめる。この一手間を省いた瞬間に、「reviewsは書くな」という指示が本当に守られたかどうかは、誰にも分からなくなります。今回、4件の偽陽性を見つけられたのは、単語の出現数だけで判定を終わらせず、実際の文脈を1件ずつ読んだからです。
答えが出た ── そして、その数字自体が2回ずれた
この記事を書き始めた時点では、再測定はまだ走行中でした。「効果があったとは書かない、次の記事で答え合わせをする」と書いていた節が、この見出しの元の姿です。しかし記事を書いている最中に測定が完了したため、結果をこの場で開示します。
結論から書きます。
- not_covered(答えていない観点)の合計: 429 → 326(-103 / -24.0%)
- 穴がゼロになった記事: 0件 → 22件
- 改善 83件 / 変化なし 34件 / 悪化 29件
実在する情報を厚くするだけで、穴の約4分の1が埋まりました。捏造をせずに指標を改善できる余地は、確かに存在するという実測です。
ただし、この数字を出すまでに、2回ずれました。両方書きます。
1回目のずれ ── 分母が違った
最初に計算したとき、この数字は-20.1%でした。今お読みいただいている-24.0%とは違います。
原因は分母です。1回目は「今日追記した178件」を分母にして計算しました。しかし実際に今日再測定できたのは146件で、残り32件は測定が届いておらず、7月17日・18日・31日といった古いスコアがそのまま「追記後の値」として比較に混ざっていました。追記前のスコアを追記後として扱っていたわけです。
分子(-103)は1回目も2回目も同じでした。変わったのは分母だけです。513を分母にすれば-20.1%、429を分母にすれば-24.0%。どちらの計算も、計算そのものは正しく行われています。ずれていたのは「何を数えたか」でした。
この記事の前半で、当サイトは「利用者の声を要求されたのは109件か93件か」という分母の話を書きました。同じ問題を、この記事自身の効果測定で踏んでいます。数字を出す側が、自分の数字の分母を確かめないまま出せてしまうという構造は、指標の話に限らず、あらゆる報告に共通します。
なお、32件が測れていなかったこと自体も、測定バッチが「完了」と表示した後に判明しました。処理が完了したという表示と、全件が処理されたという事実は、別のことです。今回はログに記録された行数(138件)と、データベースに実際に記録された件数(152件)が食い違ったことから気づきました。ログの行数だけを見て「178件の測定が完了した」と報告していれば、そのまま誤った分母で計算を続けていたことになります。
2回目のずれ ── 何もしていない記事の数字が動いた
より重要なのはこちらです。
悪化した29件は、いずれも「何かを削除した」記事ではありません。追記しかしていません。それでも、not_coveredの数が増えました。
- ある記事は 1 → 4
- ある記事は 4 → 6
- ある記事は 2 → 4
理由は、この指標の仕組みにあります。Fan-Outは測定のたびに「この記事に対して読者が抱くであろう疑問(サブクエリ)」を生成し直します。生成される疑問が毎回同じとは限りません。前回は聞かれなかった観点が今回は聞かれる、ということが起こります。同じ記事を同じ日に測っても、答えが動くのです。
146件のうち29件、約20%がこの揺れの範囲に入りました。5件に1件です。
これは、この記事の主題に直結します。指標の数字が揺れるということは、何もしていないのに数字が上がることもあるということです。上がった数字を「施策の効果」として報告することは、意図せずとも可能になります。逆に、正しい施策を打っても数字が下がって見えることもあります。
だから当サイトは、この記事で「-24.0%改善しました」を成果として掲げません。掲げるとすれば、次の形になります。
実在する情報を追記した結果、not_coveredの合計が429から326に減った。ただし同じ測定で、何も削除していない29件(約20%)の数字が悪化している。この指標は、単独の測定結果だけで施策の成否を判断できる精度を持っていない。
指標をハックしようとする立場から見れば、この揺れは好都合です。何もせずに測り直すだけで、5件に1件は数字が良くなる可能性があるのですから。「AI最適化を実施した結果、カバー率が改善しました」という報告は、測定を2回行うだけで作れてしまう場合があります。
測定結果を成果として報告するときは、その数字がどれだけ揺れる性質のものかを、報告する側が知っている必要があります。知らないまま報告すれば、それは嘘をつくつもりのない誇張になります。
それでも残った課題
変化なし34件・悪化29件について、原因の切り分けはまだできていません。今日の追記が判定ロジックにとって「十分な深さ」に届いていない可能性もありますし、記事の主題そのものが元々AIに引用されにくい性質を持っている可能性もあります。測定の揺れがそれらを覆い隠している可能性もあります。
この切り分けには、同じ記事を複数回測定して揺れの幅そのものを測る作業が必要です。今回はそこまで踏み込めていません。archives/115でllms.txtを51日間追ったのと同じように、この件も継続して観察し、次の記事で報告します。
WEBディレクターが今週確認すべきこと
この記事から持ち帰れる実務のポイントは、次の5点です。
- AI引用対策と「捏造」の境界線を、自分の中で明文化する。「AIに引用されやすくするために何を書くか」を考える前に、「自分たちが実際に持っている情報は何か」を先に棚卸しする。持っていないものは書かない、という一線を、担当者一人ひとりの判断に委ねず、社内の基準として書き残しておくこと。今日の作業では、この基準を作業チームへの指示文に明記したことで、機械的な判断のブレを防ぐことができました。
- スパムポリシーの改定日を定点観測する。2026年5月15日の変更は、日本語版で気づかれにくい静かな改定でした。日本語版だけを見ていると、実質的に世界標準より数日遅れて情報を受け取ることになります。英語版の一次情報を定期的に確認する仕組みを持つこと。今回、当サイトはWayback Machineのスナップショット比較という単純な方法で改定日を確定しましたが、この手法は他のGoogle公式ドキュメントの変更検知にも応用できます。
- 「AI評価指標を上げる」ことと「読者に嘘をつかない」ことが対立したとき、後者を優先する。今回のケースでは、対立が起きた観点はFan-Outの8観点のうち1つだけでした。残り7観点は、実在する情報を厚くするだけで埋められました。対立が起きるのは全体の一部分だけだと知っておくことが、日々の判断を早くします。すべての観点が捏造の危険を持つわけではありません。
- 指示を出したら、実行結果を自分で検算する。「reviewsは書くな」と5チームに指示を出しただけでは終わりません。今回は追記マーカーの出現数・担当リストとの突合せ・既存ブロックの破壊有無・HTTP応答・偽陽性の疑いがある4件の個別精査まで、指揮官自身が実測しました。指示を出す作業と、その指示が守られたかを確認する作業は、別の作業として分けて考えること。
- 測定結果を報告する前に、その指標がどれだけ揺れるかを知っておく。今回、何も削除していない29件(測定できた146件の約20%)で数字が悪化しました。逆に言えば、何もしなくても同程度の割合で数字が良くなり得るということです。「施策を実施した結果、カバー率が改善しました」という報告は、測定を2回行うだけで作れてしまう場合があります。改善率を報告するときは、同じ指標を複数回測って揺れ幅を把握してから出すこと。揺れ幅を知らずに出した数字は、嘘をつくつもりがなくても誇張になります。
2026年5月15日にGoogleが書き足した一文は、単語の数で言えばわずか10語ほどの追加でした。しかし、この一文があるかないかで、AI検索対策を「読者のための情報の厚み」と捉えるか、「指標をハックするゲーム」と捉えるかが分かれます。当サイトは、指標が要求した「利用者の声」93件を、技術的にはすべて書き埋めることもできました。書かなかったのは、書けなかったからではなく、書くべきではないと判断したからです。その判断の記録として、この記事を残します。
当サイトの現在地(正直な自己開示)
- ✅ 当サイト実施済 Fan-Outによる日次のカバー率測定
- ✅ 当サイト実施済 代替手段・統計データ等7観点の追記(178記事・331見出し)
- 🔧 当サイト着手中 「利用者の声」観点は意図的に未対応(実体験を持つまで書かない)
- ✅ 当サイト実施済 追記後の再測定(146記事・not_covered 429→326・悪化29件も併記)
- 🔧 これから 測定の揺れ幅そのものの計測(同一記事を複数回測り、何%が揺れの範囲かを確定する)
関連 archives(連載軸として読む)
- archives/79「Googleが『やるな』と言ったGEO施策」 ── chunking・llms.txt量産・FAQスパムが非推奨になった一次情報整理。本記事の直系の前段(2026-06-17)。
- archives/85「守る側の設計思想」 ── Preferred Sourcesから抽出した3原則。Googleが「生成AI層を守りに来る」流れの一端。
- archives/103「検索は『エージェントが代わりに動く場所』になった」 ── AIエージェントが検索結果を鵜呑みに行動する時代の背景。操作の動機が強まる土台。
- archives/115 ── llms.txt設置後51日間の実測記録。「宣言した宿題は答えが出るまで追う」型の直近前例。
- archives/118 ── 48時間後の答え合わせを宣言した直前記事。「宣言を守る」連載の直系。
WEBサイト